天然那智黒石 猫印硯工房
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硯の選び方



   
  
 ★お知らせ★

 当工房で制作・販売している硯につきまして

 タイプ別に説明したページを作りました。

   こちら(硯の分類) をご覧ください。 
    

 



どんな硯が「いい硯」なのか、高価であればそれだけ

良質であるといえるのか、硯選びも難しいものです。

 私には よそ様のことはわかりませんし、まして中国

古硯など、美術品的な価値のついた硯については

まるで門外漢ですので、ここでは自分で作っている

ものを中心に、一般的な実用硯について述べてゆきます。


              (2019年12月 6日 更新)

1.好み

基本的に、使われる方の お好みに合うかどうかが、

とても大切だと思います。

見た目で気に入って、手にした感触も心地良くて、

つい触っていたくなる。そんな硯と出会っていただきたいです。

インターネット上では、実際に触っていただけないのが

残念です。店頭などでお選びになる際には、可能でしたら

お手に取ってご覧ください (ただし、墨を磨る部分に

手の脂などがつくと、墨が磨りにくくなり、洗い直しが

必要となります。また、爪が触れると、白く跡が

残ってしまい、やはり洗い直しが必要となります。

ご覧になる際には、ご注意ください)。

 ★ 「陸を爪で引っかいて、白く跡が残れば良く磨れる

 硯である」と言われることもあります。 

 試みに、天然那智黒石を、墨が滑ってしまうくらい

 磨いてから引っかいても、爪跡は残りました。 

 この方法では判別できないように思います。


2.墨との相性

那智黒石製の硯は、「墨の下りが遅い」「なかなか磨れない」

と言われてきました。

確かに、ザクザクと早く墨が磨れる、という感触ではないかと

思います。

けれども、例えば下に紹介した墨を使用しますと、墨の

吸いつきも良く、なめらかな磨り心地をお楽しみいただけます。

少量の濃く磨った青墨を水で薄めて書きますと、にじみが とても

きれいですし、もちろん濃墨のままでもお書きいただけます。

心を静めながら、ゆったりと磨っていただきたいです。

天然石の石質(硬さや色、鋒鋩の強さ・細かさなど)は、

産地によって様々です。

また、同じ山から採った石であっても、採った場所などに

よって一様ではありません。

同様に墨も、産地・製造所・銘柄や製造年、保存状態などに

よって、その種類の多さは無数といえるほどです。 

さらには、お使いになる筆や紙によっても、書き心地や

仕上がりには大きな差が表れます。

どんな組み合わせを相性が良いと感じるのか、どのような

作品に仕上げたいのか。

使われる方のお好みも大きく関わってきますので、実際に

いろいろお試しになって、お気に入りの組み合わせを

見つけていただければ、と思います。


 当工房の硯は、陸の感触を確かめるために必ず試し磨りを

しております。 ご参考までに、磨り心地が良好、と感じた

銘柄は以下の通りです(個人の感想です)。



 優・・・
墨運堂・蘭奢待 (青墨・平成9年造)、
 
     
墨運堂・青龍胎 (青墨・平成7年造)、
 
     
呉竹精昇堂・南都青松煙 (松煙墨・製造年不明)


 良・・・
古梅園・茶墨 (顔料使用・製造年不明)、 
  
     
古梅園・紅花墨(三ツ星)(油煙墨・平成11年ごろ造)
      

 可・・・
呉竹精昇堂・妙煙翰墨自在 (油煙墨・平成8年ごろ造)

  ★スーパーで買い求めた、学童用らしき一本500円の墨は、

  磨り心地・早さ共に お薦めのできないものでした。


  ★黒味の強い、漢字清書用の墨としては

    
墨運堂の「玉品」と「大玄」をお勧めします

            (2019年11月に試しました。)

★★お客様から教えていただいた、相性の良い墨
 
 
呉竹精昇堂・青墨 絵てがみ(平成14年造)…大変なめらかです。

 
呉竹精昇堂・特選青墨三号 (製造年不明)

 
古梅園・蒼苔(松煙墨)  (製造年不明)


 ★2010年11月に、奈良の
錦光園さんで求めた

    「
国産純松煙墨 天昇龍

 旅の思い出も含めて、心地よく使わせていただいております。


 ★2012年9月に通販で購入した、三重県鈴鹿市産の墨

       
進誠堂 「樹」

  なめらかに磨ることができ、ほんのり、きれいな緑色が出ます。

 ★★2016年4月、小ぶりの硯をお求めいただいた

  お客様から「問題なく磨れた」「なめらかで良い感じ」と

  下の3種の青墨を教えていただきました。

    
墨運堂・青燭精  栄寿堂・青墨  進誠堂・蒼純



★追記★

2018年8月、上記の「青燭精」を試し磨りしました。
 

3つの硯を使ったところ、いずれも大変なめらかで

香り高く、まことに良い感じだと思いました。

また、少し前にテレビで紹介されていた、進誠堂

「1分で磨れる墨」も試してみました。 

こちらは、なめらかというよりは サーサー、スースーと

いうような擦過音を伴って、本当に早く、濃くなりました。

この墨は、小学生が授業で使いやすいようにと

開発されたそうです。大人の方の練習用などにも、

十分お使いただけるものと思います。



       

       


   株式会社墨運堂 ホームページ内

    墨のQ&A


   

   
墨と硯の関係のほか、墨に関する様々な

   Q&Aが掲載されています。
   
   同ページ内の「墨・和文具のお話し」とともに

   大変興味深く、面白く、参考にしていただけるページです。




3.価格

簡単に言いますと、「材料費+人件費」です。 どれだけの

原石を使って、どれだけの手間隙をかけたか、で決まります。

質や量の点から、希少で高価な原石を使用したものは、

高価になってしまいます。

彫刻のあるものや蓋付きのもの、丸型や対称的な形に整えられて

いるものなどは、作硯に時間がかかります。 

「普通の、四角い硯」と言われるような品は、ごくシンプルで、

あまり手間が掛かっていないようにも見えますが、硬い石を

手作業で直線・直角に加工することは 実は大変困難です。

良い石に、精巧な彫刻が施された硯には、それだけの値段が

つくでしょう。 けれども手が込んでいるように見える

高価な硯であっても、必ず石質(磨墨)の点で優れている、

とは限りません。 お気に入りの彫刻硯でしたら、彫刻が

創作の助けになってくれるかもしれませんし、あまり好みで

なければ、扱い難くて邪魔に感じられるかもしれません。

   
4.星・筋など

岩石の形成過程で、鉄分などが丸く集まって白っぽく見える

「星」や、ごく薄く堆積した砂粒が直線状に見える「筋(すじ)、

または金線・銀線」ができることがあります。  これらは

天然石の証拠であり、風景として面白いこともあります。

しかしこれらの部分は周囲とは硬度が異なり、磨墨の際には

支障となりますので、あまり目立つものが陸(おか・墨を磨る

部分)の真ん中等にあることは、実用上好ましくありません。


5.大きさ

これは言うまでもないことかと思いますが、用途に

合わせてお選びください。

ご祝儀袋に名前を書かれるくらいなら小さなもの、

太筆でたくさん練習・創作をされる方なら大きめの

ものを、といった風に。  大量に磨り溜めたい場合には、

磨った墨液を別の容器に入れてゆく、という方法もあります。

ちょっと使うたびに大きなものを取り出して、また

洗ってきちんとしまう、ということがご面倒でなければ、

「大は小を兼ねる」でも大丈夫かと思います。



<付記>

硯のお手入れ法

硯は、使い終わったら必ず水洗いしてください。 墨液が

ついたままにしておきますと、墨の成分である膠(にかわ)が

鋒鋩の間で固まってしまい磨墨が悪くなります。  また、

磨った墨液も長時間放置しておくと劣化・変質してしまいます。

スポンジ等を使って流水で洗っていただければ、簡単にきれいに

なります(墨跡が僅かに残る場合もありますが、実用上

差し支えありません)。

上記のように磨墨が悪くなった場合や、長年の使用によって

陸が磨り減って平らでなくなった場合には、書道用品専門店

などで入手できる、硯面修正用の砥石をご使用ください。

洗ったあとは、よく乾かしてから箱などに入れて保管してください。


墨の磨りかた

墨を磨る際には、手で握る部分を紙で包んでおくと、手脂などで

墨が劣化するのを防ぐことができます。

硯の下に布巾などを敷いておくと、安定感が増し、硯・机とも

保護することができます。  水滴・スポイトなどで陸に少量の

水を注ぎ、ゆっくりと磨ってゆきます。

墨液が濃くなってきたら、海に落とします。

これを繰り返して、必要な量の墨液を海にためてゆきます。

淡墨で書かれる場合は、いったん濃く磨った墨液を、

小皿などに移して水を加えて薄めると、濃さの調節が容易です。

使用後は、ひび割れなどを防ぐために、墨に付いた水分を

拭き取ってから保管してください。


墨汁の使用について

墨汁を使うことも、悪いことではないと思っています。

もちろん、できることなら机に向かって、心を静めながら

墨を磨っていただきたいです。  墨の良い香りを楽しみながら

作品の構想を練ったり、お便りする相手のお顔を思い浮かべたり。

そんな時間も書の一部、大切な ひとときだと思います。

しかしながら、私自身、以前書道教室に通っていた頃には

(初心者でして、太筆で漢字の楷書です)、限られた時間を

有効に使うため墨汁を使用しておりました。  自作の硯を

墨汁のお皿がわりにするのは けっこう情けなかったのですが、

それでもただのお皿を使うよりは余程マシだろう、と・・・。

そもそも硯を作る段階で、昔はすべて手作りだった工程に、

種々の機械・工具を取り入れて、労力・時間の節約を図っている

身で、人様に「墨は自分で磨るものだ」とも言えません。 

ご都合や、お好みに合わせて、書画に親しんでいただければと

思います。




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